アクティブラーニングという劇薬?〜そのインパクトの光と影〜

2018年3月31日

アクティブラーニングは怖くない?

「教育界に幽霊が出る――アクティブラーニングという幽霊である」

皆さんは 正直なところ、「アクティブラーニング」についてどのように感じていますか? 

「教育が良い方向に変わる」というポジティヴな見方もあるでしょうが、「また面倒そうなことが始まった」というネガティブな見方もあるでしょう。そこまでいかなくても、「よくわからなくて不安だ」という思いは、多くの先生方がお持ちなのではないでしょうか。このように、さまざまな意見や感情が渦巻き、教育界はいまたいへんに「アクティブ」になっているわけです(ラーニングしているかどうかは別として!)。

そのネガティブな捉え方は、アクティブラーニングをかなり極端にとらえるという誤解に根差している場合が多いように思われます。こうした誤解が蔓延していること、またそもそもしやすいことが、アクティブラーニングの抱える問題点です。

この記事では、そのような誤解を解消することで、皆さんの心配も払拭したいと思います。 

「アクティブラーニングってなんだっけ?」という方は、こちらの記事から参考になさってくださいね。

なぜ、いま、アクティブラーニングなのか?

アクティブラーニングにまつわる危ない誤解

3つの危ない誤解

アクティブラーニングに関する誤解は、先生方の心配だけでなく、生徒の学習への逆効果をも生み出します。アクティブラーニングが形だけのものになってしまい、学びが表面的になるという場合がありえるのです。では、そのような誤解にはどのようなものがあるのでしょうか? 代表的なものとして、「話し合い」「従来の授業との関係」「真新しさ」の3点について、この記事では取り上げます。

話し合い――「アクティブ」とは話し合うことなのか?

話し合わないラーニングは、ただのラーニングか?

まず問題になりうる認識に、「『アクティブラーニング』とは話し合いをする授業である」というものがあります。ここで気付くべきは、学ぶときにアクティブなのは、なにも外面だけではないということです。重要なのはむしろ頭の中、すなわち内面のアクティブさです。市川(2016)は、内的なアクティブ状態こそが目指すべきものだとして、外的なアクティブさは、そのための刺激と位置づけています。

このように考えないと、思考が伴わない表面的な会話をよしとしたり、いくらよい思考をしていても会話が少ないからダメとしたり、という過ちを犯しかねません。逆に言えば、授業を話し合いばかりにする必要はないということです。

従来の授業との関係――従来の授業とアクティブラーニングは対立するのか?

伝統的な教育は死滅するのか?

重要なのは、知識がないことについて、考えたり話し合ったりはできないということです。例えば蒋・溝上(2014)は、大学生を対象にした「ピア・インストラクション」について実証的な研究を行いました。これは、アクティブラーニングの一形態として提案されているものです。しかし予習による知識の注入をしなかった学生はむしろ、学んだ内容について深く考えずただ受け止めるというような「浅い学習アプローチ」を増やしてしまったのです。

ここからもわかるように、アクティブラーニングの前提として必要なのは、従来の知識伝達型の授業や、その予習・復習なのです。実際「反転学習」というアクティブラーニングの一形態は、授業をまるごと討論などの活動に充てるかわりに、家庭での予習を求めているのです。ここを見誤ると、かえって深い学びが実現できないという事態になりかねません。逆に言えば、今までの授業が全否定されることはないということです。

真新しさ――アクティブラーニングの理念は今まで全くなかった考え方か?

アクティブラーニング、新登場?

2017年に告示された次期学習指導要領は、「主体的・対話的で深い学び」というのがキーワードになっています。この言葉がアクティブラーニングのことを示しています。では、このような考え方というのは、今回の学習指導要領で初めて登場したものなのでしょうか?

決してそうとはいえません。冷静に考えれば、この発想自体は「生きる力」の育成であるとか、「言語活動の重視」といった、今までの学習指導要領に出てきたキーワードと、非常に重なる部分が大きいということがわかるでしょう。実際、文部科学省(2017)も、「小・中学校においては、これまでと全く異なる指導方法を導入しなければならないと浮足立つ必要はなく、これまでの教育実践の蓄積を若手教員にもしっかり引き継ぎつつ、授業を工夫・改善する必要」と述べています。これまでと全く異なることをされてしまうのは、文部科学省としても本意ではないのです。文部科学省のこれまでの理念がまず先にあって、そこに「アクティブラーニング」という言葉を接ぎ木した、といったほうが正確でしょう。

まとめ: これまでの経験を生かした授業づくりを

先生方は自信を持ってください!

 この記事ではアクティブラーニングをめぐる誤解を挙げ、

話し合いの有無よりも、頭の中がアクティブになっているかどうかに注目すべき。
従来の知識伝達型の授業はアクティブラーニングと対立せず、むしろ前提となる。
これまでの文部科学省の方針と異なるものではなく、むしろ延長線上にある。

という3点を確認してきました。

アクティブラーニングは劇薬です。確かに、この言葉は教育界を強く刺激しました。その刺激が教育のさらなる改善へと向かえば、素晴らしいことです。しかし、かえって学びを阻害したり、先生方に余計な心配を抱かせたりする危険性をもはらんでいます。大事なのは、アクティブラーニングとは奇をてらったものではないということです。先生方のこれまでの経験が生きる部分も、たくさんあるのです

この記事が先生方の不安を払拭し、「もっとアクティブラーニングと向き合ってみよう」という思いを生み出せたのであれば、幸いです。そのための武器は、先生方ならすでにお持ちのはずなのですから。

引用文献

市川伸一(2016).目指すべきアクティブ・ラーニングとは初等教育資料20164月号,20-23
文部科学省(2017).幼稚園指導要領、小・中学校学習指導要領等の改訂のポイント http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/__icsFiles/afieldfile/2017/06/16/1384662_2.pdf (2018. 2. 15. 閲覧)
蒋研・溝上慎一(2014).学生の学習アプローチに影響を及ぼすピア・インストラクション-学生の授業外学習時間に注目して-日本教育工学会論文誌,382),91100

 


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